子どもとどうかかわるか? (これまでの学習会)
Part1「被害と加害に向き合いながら」2013/02/23
山口由美子さん (佐賀バスジャック事件被害者)
(パネルディスカッション)山口由美さん/佐々木光明さん(研究者)/坪井節子さん(弁護士)
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Part2「子どもたちの声なき声を聴く」2013/04/18
寺尾絢彦さん(元家庭裁判所調査官/ミーティングスペース・てらお主宰)
参加者によるディスカッション:「少年法を生み出した理念って?」
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Part3「非行と向き合うための対話」2013/07/20
(お話:いじめと修復的対話)山下英三郎さん(元スクールソーシャルワーカー/日本社会事業大学名誉教授)
(コメント:少年法『改正』問題にひきつけて考える)佐々木光明さん(神戸学院大学教授)
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院内集会ちょっと待って!少年法「改正」少年の心に寄り添う審判とは? 2013/11/06
~少年法の歴史を振り返りながら、あるべき審判の姿を探る~
多田元弁護士(愛知県弁護士会)/村井敏邦さん(研究者)/坪井節子弁護士(東京弁護士会)
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少年法改正案に対する緊急意見書(2012年9月13日)

法務大臣が2012年9月7日に少年法「改正」案を法制審議会に諮問したことに危機感を覚えた弁護士・研究者有志で、同月13日、「緊急意見書」を発表しました。

これが、私たち有志の会の活動の原点です。

長文になりますが、是非一度お読みいただければと思います。

 

      少年法改正案に対する緊急意見書

                               2012年9月13日

 2012年9月7日、法務大臣は、少年審判に国選付添人が選任される対象事件の範囲を長期3年を超える罪にまで拡大すること、非行事実の認定に必要な場合は、検察官が立ち会うことができる対象事件も同様の範囲に拡大すること、有期刑の引き上げ(不定期刑の上限を現行の10年から15年に、無期刑で処断すべき場合の代替有期刑の上限を現行の15年から20年に引き上げ)を内容とする少年法改正案を、法制審議会に諮問した。
 検察官関与対象事件拡大は、少年審判の刑事裁判化をさらに進め、少年法の理念を変容させるものである。また有期刑の長期化は子どもの更生を著しく困難にし、非行予防の効果もない。私たちは、検察官関与拡大と重罰化を内容とする、法務大臣の諮問した少年法改正案に、強く反対する。以下にその理由を述べる。

 

1 国選付添人選任対象事件は、罪名や法定刑に限定せず、少年法3条1項各号に該当するとして観護措置を採られている全ての少年を対象とすべきである。
 少年法は、非行に陥った子どもを非難し罰によって懲らしめるのではなく、非行を子どもの育ちの問題として捉え、子どもの健全な成長発達をはかることを通しで、非行という問題を解決することを目指している。
 そのために、少年審判は、教育学、臨床心理学、児童精神医学、ソーシャルワークに関する知見などの科学的、合理的な知見に基づき、子どもを理解し、非行の原因を考え、少年の非行性を解消するために必要な処遇を決定する場とされている。
 そのような場であるからこそ、少年審判では、刑事裁判とは異なり、少年と裁判官の対話を通して適切な処分が決定される審問構造となっている。
 しかし、子どもたちは、元来成人に比して防御の能力も弱く、自らの気持ちや主張を整理し表明する力も不足している。家庭や学校、職場との関係調整を行うこともできない。このような子どもたちが、心を開き、自らの行為をふりかえり、真実を見つめ、反省し、立ち直るきっかけを得るためには、弁護士である付添人による法的援助を受ける必要性がある。これまでの扶助的付添人活動の実績はそれを裏付けるものである。
 少年法10条は少年自身の権利として付添人選任権を認めており、国連子どもの権利条約も弁護人等の法的援助を受けることを子どもの権利として認めている。少年の付添人選任の権利行使が保護者等の貧富の差等により格差が生じることがあってはならないのは当然のことである。弁護士付添人の法的援助を平等に保障することは、すべての子どもの健全な育成に責任を負っている国の本来的な責任というべきなのであり、国選付添人制度の拡充は当然の要請である。
 そして、これらの援助は、現実に身柄の拘束を受けている全ての少年に対し、適正手続の履践の要請の観点から、認められるべきであり、罪名や法定刑の如何で区別されるべきではない。

2 検察官の関与対象事件は、現行法以上に広げられるべきではない。
 もともと、検察官は、少年の健全育成を担うという専門性を有しない。それにもかかわらず、2000年の少年法改正では、家庭裁判所の非行事実認定に協力するものとして、一定の重大事件への検察官関与を導入した。
 しかし、少年審判は刑事裁判と異なり、予断排除の原則も、伝聞証拠法則の適用もなく、証拠制限の手続はない。捜査段階の証拠は全て家裁送致時に裁判所に送られ、裁判官は、審判が始まる前に全ての証拠に接している。子どもたちが、長期間にわたり、逮捕、勾留された状態で、自白の強要を受けて作成された供述証拠、違法な捜査によって収集された証拠、捜査機関が恣意的に作成した捜査報告書なども、刑事裁判の場合と異なり、証拠から事前に排除することはできない。 そのために、裁判官も、少年自身の弁解を聴取しないままに証拠に目を通し、一定の心証を形成したうえで、審判を開くことを余儀なくされ、少年が事実関係を争うとすれば、成人の刑事裁判の場合に比べて、はるかに不利な状況に置かれることになり、少年法の理念を無視した審判運営がなされれば、冤罪が起きる危険性は極めて高いものになる。だからこそ、弁護士付添人がついて子どもの言い分を代弁することが必要なのである。
 これに対して、捜査の担い手である検察官が、捜査段階を引き継いで有罪立証を遂行することは、少年が違法・不当な捜査に対して真実を主張しようとすることに対して、心理的な圧迫を加えることにほかならない。
 いわゆる大阪地方裁判所所長襲撃寃罪事件では、非行事実なしとした家裁の不処分決定に対し、審判に関与した検察官が不服として抗告受理の申立をしたため、最高裁での審理を経て冤罪が晴れるまで、実に4年半の歳月を要した。検察官の審判関与、抗告受理申立のあり方が、未成熟な子どもの特性への理解を欠き、無罪推定の原則を逸脱し、自白を偏重した不適切なものであった典型例である。
 2000年の少年法改正による検察官関与が、実際に少年審判においてどのような役割を果たし、少年の健全な育成にどのように寄与したのか正確な検証がなされるべきであり、それがなされるまでは、関与の範囲を拡大すべきではない。
 現に、最高裁判所も、国会における答弁で、日弁連の少年保護事件付添援助事業により、観護措置をとられた少年の70%以上に弁護士付添人が選任されている現在の状況下において、事件関係者から、審理のバランスを欠いているといった批判がないことを認めている。このことは、国選付添人制度拡大とのバランス上、検察官関与対象事件をも拡大しなければならないという立法の根拠となる事実は存在しないことを示している。
 弁護士付添人がつく以上はバランスを保つために検察官も関与すべきという議論は、このような少年審判と刑事裁判の違いを無視し、付添人を、あたかも当事者対等の刑事訴訟の弁護人と同視し、少年が裁判官の面前で捜査機関、訴追官である検察官から追及されることを当然とする暴論であり、捜査段階での自白を撤回することに対する圧力を認める以外の何物でもない。
 今回の改正案は、検察官関与対象事件を、飛躍的に拡大しようとするものであって、少年法の理念の後退をさらに進行させ、ひいては崩壊をもたらす危険をはらむものというべきである。

3 少年事件の不定期刑、代替有期刑の上限引き上げが必要であるとする立法事実は明らかでない
 今回の少年に対する刑罰の強化は、これまでになされた成人の懲役刑上限引き上げに連動するものと思える。しかし、おとなの10年と子どもの10年は、全く意味が異なる。16歳の子どもが、20年服役することとなれば、社会で暮らした時間より、刑務所で幕らした時間の方が長くなってしまう。心身の成長が最も著しい時期に長期間社会から隔絶された子どもが、社会に戻ってきたときの社会適応の困難は容易に想像できる。社会に居場所を失い、ひとりの社会人として、自立することが不可能となれば、再び犯罪者となるしかなくなる恐れが大きい。
 またこのような厳罰化には、少年犯罪を抑止する効果も期待することができない。
 少年犯罪被害者の権利回復は、厳罰化によってではなく、被害者の国選弁護人制度の実現などを含めた総合的な制度構築により行われるべきである。

4 なお要綱は、国選付添人拡大と検察官関与拡大を、項目としては分けながら、両者を統合したタイトルを「国選付添人制度と検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大」として、審議、採決での一体化、一括採択を意図していると解さざるを得ない。
 両者に理論的な関連はなく、上記のような問題のある検察官関与拡大を、国選付添人拡大に乗じて実現しようとすることは極めて不当である。有期刑の重罰化についても、同様である。
 日弁連は、これまで一貫して検察官関与と厳罰化に反対を表明してきた。弁護士の使命は、人権擁護と社会正義を実現することにあり、そのために、あらゆる権力とも一線を画し、自由独立を貫く必要がある。
 私たちは、子どもの権利保障のために、全面的国選付添人制度の実現を求めるものであるが、少年法の理念を根底から覆す、検察官関与対象事件拡大、有期刑上限引き上げには、強く反対する。

                                      以上